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名前だけは昔からよく知られているヴァルポリチェッラは、現代的な視点から再考せねばならない産地の代表格である。なぜならそれは複数品種ワインだからである。

イタリアの多くのワインは現代では単一品種で造られる。単一品種ワインは当然ながらピュアな味わいであり、変数が少ないだけに、ワインの味わいを決める残りの要因、端的にはテロワールの表現に関して傑出したパフォーマンスを示す。しかしそれだけに、現実的なワインの使用条件である食卓においては、針に糸を通すが如き相性の難しさにつながりやすい。それだからこそおもしろいと言えるにしても、だ。

複数品種といってもある品種が90パーセント、残りが10%といった場合は、後者はあくまで前者の補佐役だ。しかしヴァルポリチェッラ(Zemeではコルヴィーナ40%が最大)のように、主演俳優が突出しない多品種ワインの場合、それぞれの品種が異なった性格を持ち寄り、あるひとつの個性が支配的になることなく、いろいろな条件に対して包容力のある相性を示す。それを曖昧と呼ぶ人もいるだろうが、複雑・多面的と呼ぶのが正しい。

さらにヴァルポリチェッラの場合、複数品種のワインがブレンドされるのではなく、Zymeのように混植畑のブドウが同時に収穫、混醸されるのが一般的である。この場合、経験からして、味わいのスペクトラムがブレンドより広くなると同時に、より一体感を増す結果となる。ただしその前提は、混植されたブドウの成熟に大きな差がないということだ。ボルドーで混植混醸が存在しない理由はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルロのあいだに3週間もの成熟のずれが生じるからであり、その特殊事情を基本としてはいけない。もともと成熟スピードが揃った伝統的なブドウによって造られるヴァルポリチェッラにおいては、複数品種の統一感が約束されている。

品種以外にも複雑さを生み出す要因がある。ヴァルポリチェッラの畑は北から南に延びる5つの尾根にある。この尾根は細く、ゆえに畑は東向きと西向き双方にまたがる。柔らかい日差しを受ける東向きの清涼感や上品な香りと、強い日差しを受ける西向きのパワー感や果実味の甘さが自然と組み合わさり、テロワール的な意味でも更なる複雑さをワインに与える。

またヴァルポリチェッラの産地には、通常の醸造方法によって造られるノーマルなヴァルポリチェッラと、三か月以上陰干ししたブドウで造られるアマローネと、アマローネを造ったあとの果皮をヴァルポリチェッラに加えて再発酵させたリパッソの3種類の辛口赤ワインがあるのも魅力だ。軽快で伸びやかなヴァルポリチェッラ、濃密でボリューム感のあるアマローネ、そしてその中間の、強さと柔らかさと甘やかな香りを備えたリパッソ、という三つの異なる個性を同じ産地の同じブドウから生み出すこと自体が驚きである。

結果としてヴァルポリチェッラは、世界でも最も汎用性の高い赤ワインのひとつとなる。そんなヴァルポリチェッラの魅力が十全に理解できるのがZymeの一連のワインである。2003年にZymeを創業したチェレスティーノ・ガスパーリは、ヴァルポリチェッラの地位を世界最高のワインのひとつへと高めた伝説的生産者ジュセッペ・クインタレッリのもとで12年修業し、コンサルタントとしても名を成した人物。ヴァルポリチェッラとは何か、いかにあるべきかについて誰よりも知る。ジュセッペの娘婿でもある彼は、クインタレッリの正統な継承者とみなされてしかるべきワインメーカーだ。

Zymeの最もベーシックなヴァルポリチェッラは、柔らかい果実味を基調とした、樽を使わない軽やかなワイン。食中酒として最も汎用性が高いが、あえて言うならパスタや野菜料理等に向く。ヴァルポリチェッラ・クラシコ・スーペリオーレは、そう記載されてはいないがリパッソ。樽熟成されたこのワインは骨格が前者より遥かにしっかりとしており、グリルした肉に対する基本ワインと言える。アマローネ・クラシコは濃密な黒系果実とスパイスの風味があり、ジビエや複雑な構成要素をもつ煮込み料理に対して盤石な相性を示す。そして最上の畑の高い樹齢のブドウから造られ、熟成後に発売されるアマローネ・クラシコ・リゼルヴァは、辛口の食後酒といった趣の完成度があり、熟成チーズと共にじっくり鑑賞するに値する。この4本で多岐にわたるニーズに対応できるヴァルポリチェッラ。食卓での効用を最大の魅力のひとつとするイタリアワインにとっていかに重要な存在なのか、Zymeのワインによって認識を新たにすることだろう。